停死

1番いい時期なのに。

今まであんなに頑張ってきたのに。

報われないのが可哀そう。

今やらないと後で絶対虚しくなるよ。

見ていると悲しい気持ちになる。

どうして今なの?

 

 

私が止まると傷つく人がいるらしい。

 

幾度となく壁に当たれど軌道修正を繰り返し、

「止まる」を知らなった私。

けれど昨年、不意にその選択肢を目にした。

 

今まで私の目の前には一度も現れなかったそれ。

 

存在は知っていたけれど、己とは無縁だと思っていたからか

なんだかとても不思議な気持ちになった。

それでも、他に広がるどんな選択肢よりもそれはキラキラと輝いていて

気がついたら私は手に取っていた。

 

それから数週間。

その輝きは紛れもなく本物だった。

周囲は驚くほど私に優しくなり

訳を作らずとも何もしなくてよい時間が手に入った。

誰も傷つけることもなければ、誰からも傷つけられることもない世界。

 

けれど、さすが本物である。

それだけでは終わらなかった。

 

それは私に考える隙と時間を与えてしまった。

 

本当は心のどこかで気づきつつも

決して口にすることも文字にすることも無かった思考と感情。

 

一度外に出してしまったら、もう後戻りはできない。

繊細かつ理性の化け物みたいな私のことだから、死ぬまで脳内で再生され続けるだろう。

 

「止まる」は己も他人も傷つけない選択肢だとばかり考えていたが

どうやら違ったらしい。

「止まる」はこの世で最も私に優しいけれど、

それ以上に私の心を深く抉り、この先消えることの無い傷跡を残していったのだ。

 

 

優しい時間は決して優しくないのである。